2010年09月30日

9月を振り返る

9月を振り返る 
(琉球新報9/13記事全文はコチラ

写真の比嘉祐一さんはこのあと市議会議長に選出されました



時評 2010 9月

 
佐藤学(沖縄国際大学教授)

 9月12日の名護市議会議員選挙で、辺野古新基地建設反対を明らかにした稲嶺市長を支持する候補者が、27議席中16議席を占める結果となった。1月の市長選挙に続き、名護市民の意思は、明瞭に示された。その2日後の民主党代表選挙に勝ち、続投が決まった菅首相には、この結果の影響は全くなかった。「沖縄の負担軽減に全力を上げる」「沖縄に説明し、理解を求める」の繰り返しである。

 そもそも、1月の市長選挙の前に、鳩山政権はどう見ていたか。容認派の現職勝利を見込む一方、反対を表明した市長では、辺野古新基地建設は無理であると判断していたではないか。今回も、前原沖縄担当大臣が、前市長をはじめとする「容認派」への働きかけをしていた事実が、本来、名護市民の決定が、重い意味を持つべきであることを示している。にもかかわらず、市議会議員選挙の結果も黙殺する構えである。

 それどころか、この選挙結果に、菅政権は安堵しているのではないか。それは11月28日の沖縄県知事選挙で、仲井真知事が、より強く、県外・国外を言わねば勝てない状況になり、基地問題を争点から消すことになるからである。仲井真知事は、今回の市議会選挙で、「容認派」候補者たちを公然と支援した。知事の普天間問題への姿勢は、国の「手続き」を批判しているのであり、本来は県内移設を推進する立場であることを、今回の選挙後にも発言している。菅政権としては、仲井真知事が再選されれば、あとは条件次第で辺野古新基地建設を受け入れさせることが可能であると見込んでいるであろう。

「基地と経済」の破綻
 名護市議会選挙の結果は、「基地と経済の交換」という、強いられた政策思考が、その中心地で破綻したことを意味する。辺野古での新基地建設を押し付けるために、種々の「振興策」が投下されてきた。しかし、その最大の受益者であったはずの名護市は、持続可能な強い産業基盤を構築できたであろうか。これら事業は、そもそも、そのような「内発的発展」を支援するような性質のものではない。名護市の「振興策」依存体質を強めるだけであった。そして、この構図は、名護市だけでなく、沖縄全体に共通するのである。

 1月の市長選挙後には、名護市民は、公共事業を維持するために、新たに政権党である民主党に近い市長を選んだ、という解釈も見られた。しかし、民主党は周知の通り、辺野古新基地建設に政策を転じ、一方、稲嶺市長は、米軍再編推進交付金を受け入れない姿勢を貫いている。それでも、名護市民は今回の決断をしたのである。

 名護市は、1970年代に、第一次総合計画基本構想で、豊かな自然に価値を見出す「逆格差論」を高らかに宣言し、土地の条件を生かしたまちづくりを提唱して、80年代まで、その実践に努めていた。今では県内でも忘れられている、この「逆格差論」は、今日まさに最先端を行く「持続可能な社会」を先取りした思想であり、名護市民は、それを具現化する営みをしていた。

 さらに、95年の基地受け入れを問う「市民投票」は、争点を直接民主制により判断するための、条例による住民投票として、全国的にも最も早く実施された一つであった。名護市民は、そこでも、明瞭に基地受け入れ反対の意思表示をした。

国益のための圧殺
 その後15年間、国により、曲げられ、押しつぶされてきた名護市の自治精神が、今年の二つの選挙でついに蘇ったのである。日本が民主制の国であるならば、当事者たる地元自治体住民の、これほどはっきりした意思表示を圧殺することは、考えられない

 しかし、残念ながら「国益のために」という論理で、菅政権は辺野古新基地建設を強行してくる。海兵隊が沖縄にいなければならないという条件が、本当に動かせないものであるならば、個々には、原理的な衝突が生じる。しかし、海兵隊を沖縄に置く必要があるという主張の根拠を揺るがすような動きが、米国側にあるのだ。7月に、民主・共和両党の有力連邦議会議員が、沖縄やグアムでの海兵隊基地建設を批判する論説を発表した。8月には、ゲーツ国防長官が、海兵隊の役割そのものの見直しを、軍全体の経費削減の流れの中で命令しているアーミテージ元国務副長官が、辺野古にこだわる必要はないとの発言をしている。

 一方、尖閣をめぐる日中対立で、日本の世論では、辺野古新基地の建設がより強く支持されるであろう。全国メディアの報道により、普天間返還・辺野古断念は、即、在沖米軍の全面撤退であるとの誤解が広まっている。舛添要一が子供向けに出した近著『よくわかる政治』は、その一例である。抑止力を担う嘉手納空軍基地の存在、ホワイトビーチの存在は、無いものとされている。事実の基づかぬ政策論議が支配しているのである。

 財政危機の只中にある米軍には、余計な兵力を維持する力がない。また、尖閣をめぐる対立に、米軍が介入することはありえない。日米に今こそ必要なのは、真に日米関係を、政治的に進化・深化させることであり、一方的に沖縄を貢ぐことではない。沖縄が、無益な普天間県内移設を絶対に受け入れない立場を貫くことが、長期的にはよりよい安定した日米関係を作り出すことになる。狭い既得権擁護に固まった日米官僚に引き回されれば、日本は行き詰る。一方、交渉に応じて辺野古建設を認めることになれば、沖縄は、隷属的地位から永久的に脱却できなくなる。知事選挙での県民の選択は、この上なく重要である。(琉球新報9/27)




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Posted by ミチさん at 22:52│Comments(0)反基地
 
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