2014年02月11日 21:45
[拝啓 ケネディ大使] 現地訪ね市長と会談を
キャロライン・ケネディさん、ようこそ沖縄へ。駐日米大使として、きょう初めて来県されるんですね。沖縄の多くの人があなたの発言に注目しています。
大使館スタッフのブリーフィングや日本政府関係者の情報からはとらえきれない、この島のありのままの姿を見て考えてもらいたいからです。
宜野湾市の市街地の真ん中にある米軍普天間飛行場。移設先に予定されている名護市辺野古の海は、県の環境保全指針で「自然環境の厳正な保護を図る区域」であるランク1に評価されています。
上空からではなく、自らの足で、目で、耳で確かめてください。
1963年11月、あなたの父ジョン・F・ケネディ大統領がテキサス州ダラスで悲劇に見舞われた日、この島も悲しみに包まれました。
コザの繁華街はネオンを消し、飲食店は営業を自粛しました。哀悼の日には、学校や職場などで多くの住民が黙とうし、哀悼の意を表しました。
駐日米大使としての赴任に当たって日米間のさまざまな懸案について学んだことと思います。普天間問題は、ご存じのように96年の返還合意から18年にわたって、迷走を続けています。
なぜでしょうか。辺野古を訪れ、移設反対を訴えテント村で座り込みを続けている人たちとじかに話してみることです。日米の外務・防衛官僚の説明とは違った沖縄の生の声が聞けるはずです。それによって、この問題の深層に触れることができるでしょう。
■ ■
先の名護市長選で、名護市の民意は示されました。普天間の辺野古移設は地域利益に反するという稲嶺進市長の主張に多くの市民が賛同したのです。
沖縄タイムス社などが昨年末に実施した県民世論調査では、7割近くが辺野古移設に反対でした。沖縄の多数意思は今も、普天間の県内移設に反対しています。
今回の来県で、名護市を訪れ、稲嶺市長と会い、その考えに耳を傾けるべきです。
あなたは短文投稿サイトのツイッターで「米国政府はイルカの追い込み漁に反対します」と表明しました。
辺野古の周辺海域は、イルカと同じ海洋哺乳類ジュゴンの生息域です。ジュゴンは国の天然記念物で環境省は「絶滅の危険性が極めて高い種」に指定しています。
沿岸域が埋め立てられれば、影響は避けられません。基地建設によってジュゴンを失うことは人類にとって大きな損失です。
■ ■
日本政府は、名護市長選の結果を考慮することなく、辺野古の埋め立て工事に向けた手続きを進めています。民主主義を大切にする社会で、地元合意なしに一方的に軍事基地を建設することは許されません。
沖縄戦と27年間の米軍統治、その後も過重な基地負担を背負わされている沖縄に、新たな米軍飛行場を建設するのは「沖縄差別」というしかありません。多くの県民の思いをぜひオバマ大統領に伝えてほしいのです。
(沖縄タイムス2/11社説、記事原文はこちら)
拝啓 米大使ケネディ様
辺野古断念へ決断の時 沖縄の民主主義尊重を
親愛なるキャロライン・ケネディ駐日米国大使へ。あなたの沖縄訪問を心から歓迎します。
日米両国は外交・安全保障や経済分野などで多くの課題を抱えていますが、卓越した見識とヒューマニズムの精神で、日米関係の再構築に手腕を発揮することを期待します。
わたしたちは軍事偏重の日米関係ではなく、両国国民の信頼に裏打ちされた重層的で持続可能な日米関係を望んでいます。
沖縄県民は自由と民主主義、人権の尊重という普遍的価値を米国民と共有したいと望んでいます。米政府は沖縄の民主主義を尊重していますか。
反面教師
戦後68年間、米国は沖縄住民にとって民主主義の教師であり、反面教師でもありました。
米国に留学した沖縄の先達は異口同音に民主主義の素晴らしさを口にします。戦前、軍国少年としての教えを受けた若者たちは胸を高鳴らせて米国で学び、その成果を戦後復興や高等教育の普及などに生かしました。
その一方で戦後初期に伊江島や伊佐浜で抵抗する住民を「銃剣とブルドーザー(重機)」を使って排除し、強制的に土地を奪い基地建設を進めたのも、同じ米国です。これはハーグ陸戦条約(戦時国際法)46条が禁ずる私有財産の没収に当たるのではないでしょうか。
米軍普天間飛行場のある地域は戦前、農耕地や村役場、学校などがあり、人々の生活の場でした。住民を排除して居座り、過重負担を強いる基地の異常性を知るべきです。
日米両政府は17年前の合意に基づき、普天間飛行場の名護市辺野古地域への移設計画を進めています。新基地が完成したら、重大事故が絶えない垂直離着陸輸送機オスプレイが常時駐留し、戦闘機なども恒常的に飛来するでしょう。
県民は事故の危険性や騒音被害などで北部地域住民の命と人権、財産が半永久的に脅威にさらされることを危惧しています。
辺野古の海はサンゴ礁が広がり、人魚伝説のモデルとされるジュゴンが棲(す)んでいます。ジュゴンは、環境省作成の「レッドリスト」で、絶滅の危険が最も高い「絶滅危惧1A類」に指定されています。
最近、あなたは短文投稿サイトのツイッターで「米国政府はイルカの追い込み漁に反対」と発信されましたね。英語版には賛同や感謝が多く表明される一方、日本語版には「漁は住民の生活の一部」など反論が目立ちました。
あなたは「イルカが殺される追い込み漁の非人道性」について懸念を表明されました。逆にお尋ねしますが、ジュゴンの餌場である辺野古の海を埋め、生息を脅かすことは非人道的ではないですか。
新しい扉
世界自然保護基金(WWF)によると、国際保護動物マナティについては保護区が各地に設けられています。米フロリダ州では魚類野生生物保護委員会が生物学者の機関・組織とネットワークを結び、マナティの救出、リハビリ施設への運搬作業をしていると聞きます。
国際自然保護連合(IUCN)は過去に3度、辺野古海域のジュゴン保護を勧告しています。あなたは、辺野古移設反対の沖縄の民意と絶滅危惧種の保護を無視するような過ちを犯してはなりません。
「キューバ問題、部分的核実験停止条約の締結、国内での人種差別撤廃など一連の国内、国際問題でときに悪戦苦闘し、ときに示した行動力、決断力とその問題解決への貢献は、英知と情熱に裏づけられた真の政治家のそれだった」
あなたの父、ジョン・F・ケネディ大統領が凶弾に倒れた時、琉球新報はその死を悼む社説を掲げました(1963年11月24日付)。「ニューフロンティア精神」の旗手と言われた大統領の死は沖縄住民にとっても衝撃的でした。
ケネディ大使、父親譲りの使命感で、米軍が住民の安全を脅かしている沖縄の軍事的植民地状態に終止符を打ち、新しい琉米友好の扉を開いてください。今回の沖縄訪問を、辺野古移設断念と普天間撤去への大きな転機とするよう強く求めます。
(琉球新報2/11社説、記事原文はこちら)