2012年03月30日 21:58
[普天間爆音訴訟]司法は不条理をただせ
米軍普天間飛行場周辺の住民らが、昼間・夜間の騒音差し止めなどを求め30日、那覇地裁沖縄支部へ提訴する。「第2次普天間爆音訴訟」に加わった住民は無理難題の解決を司法に求めているのではない。「静かな日々を取り戻そう」と当たり前のことを訴えているだけである。
つまり、この裁判では飛行場周辺の住民に、静かな日々すら送れないような生活環境を長年強いてきた国の在り方が問われることになる。
裁判所は、早朝から深夜まで続くヘリコプターや米軍機の騒音に悩まされ、墜落事故などの危険におびえる生活環境を放置してきた国の対応、政策が妥当かどうかを法と正義に基づき冷静に判断してほしい。
過去の爆音訴訟で頻繁に用いられてきた「第三者行為」(日本政府は第三者となる米軍の活動を規制・制限できない)なる難解な法理論はもはや通用しない。
実際、住民は同飛行場に離着陸する米軍機やヘリコプターの飛行差し止めは求めていない。午後7時から翌日午前7時まで40デシベル、午前7時から午後7時まで65デシベルを超えない騒音の差し止めだ。
第三者(米軍)の行為をやめさせてくれと言っているのではなく、米軍に基地を提供している政府の責任として騒音の低減を要求しているにすぎない。騒音レベルも、環境基本法に基づき、健康を維持する上で望ましいとされるもので達成不可能な数値ではない。
裁判所は三権分立の原則に立ち、行政(政府)の不作為あるいは瑕疵(かし)の有無をチェックする役割を負っている。
同飛行場の運用で生じた騒音の違法性については、2008年に那覇地裁沖縄支部で言い渡された「第1次普天間爆音訴訟」の判決で認定され、10年の福岡高裁那覇支部判決でも維持され、確定した。
政府は判決に基づき、なんらかの騒音軽減措置を実行しなければならないが、現状はむしろ悪化している。
県が発表した航空機騒音調査(10年度)によると、宜野湾市上大謝名で発生した騒音のピークレベルは123・6デシベルに達し、1日の騒音発生回数は71・4回に上る。
裁判所から違法性を認定され、損害賠償の支払いを命じられているにもかかわらず、騒音の発生を改善できない政府の責任は大きい。
政府は、直ちに騒音の軽減に全力を挙げてもらいたい。「米軍の活動を規制・制限できない」などという言い訳はもはや通用しないし、法治国家としても決して許されない。
同訴訟の原告数は1次の約8倍の3129人に上る。騒音被害に加え、危険性に不安を感じる住民が増えていることを如実に示している。とりわけ、ことし秋に予定されている垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ配備に対する住民の怒りを表している。
オスプレイの配備について政府は事前説明もなく、同飛行場の辺野古移設に向けた環境影響評価書で初めて明記した。これでは住民の反発は当然だ。政府、米軍はオスプレイの配備を断念すべきである。
(沖縄タイムス3/30社説、記事原文はコチラ)
普天間爆音提訴 根本的救済は司法の責務
住民の人権が無視されている現実に目を背けるのではなく、住民の立場に立った司法判断を求めたい。
米軍普天間飛行場周辺の宜野湾市、浦添市、北中城村の住民ら3129人が、米軍機の騒音で健康を害したとして、騒音の差し止めや約51億円の損害賠償を国に求める普天間爆音訴訟の第2次訴訟を那覇地裁沖縄支部に起こした。
原告団数は2002年に提訴した第1次訴訟約400人の約8倍にも膨らんだ。今後も追加提訴するという。
住民側は米軍機の騒音による聴覚被害や、ヘリコプターから発生する低周波音で精神的苦痛を受け、憲法で保障された平穏な生活を営む権利などが侵害されていると訴え、夜間早朝は40デシベル、その他は65デシベルを超える騒音の差し止めを国に求めている。
年間約2万回も繰り返される航空機の離着陸で、住民生活に大きな支障を来している。「人間らしい、当たり前の生活を送りたい」と願う原告住民の要求は当然だ。
第1次訴訟では、ヘリコプター低周波音による被害を認定し約3億6900万円の支払いを国に命じた10年7月の福岡高裁那覇支部判決が確定している。
だが、騒音の違法性を認定したにもかかわらず、原因となる米軍機の飛行差し止めには踏み込まなかった。
飛行差し止めは、国の支配の及ばない第三者(米軍)の行為であり、国は米軍による普天間飛行場の活動を制限できないとした。いわゆる「第三者行為論」だ。
違法性が認定されたのだから、騒音は除去されなければならないはずだ。しかし爆音は放置され続けている。司法による住民救済の放棄の結果だ。
日米安保条約、地位協定に基づき米軍に基地を提供する国は共同加害者であり、第三者行為論をもって実質的に国民の権利を侵害している状況はおかしい。国は憲法上、違法な侵害行為を差し止める「代償措置義務」を負うはずだという原告の訴えは、国民主権の観点から考えればもっともな主張だ。
損害賠償では問題の本質は解決しない。騒音発生の原因である航空機の飛行が差し止められない限り、提訴は繰り返されるだろう。
司法による救済の放棄が再びあってはならない。切実な住民の叫びに耳を傾け、根本的救済に乗り出すことが司法に課せられた責務だ。
(琉球新報3/31社説、記事原文はコチラ)
教室に響く爆音 国際常識に反する理不尽さ
車の2~3メートル前に立って聞くクラクションを想像してほしい。たちまち心拍数が上がる耳をつんざくごう音である。
会話が成り立たず、音によるあらゆるコミュニケーションが断たれる水準の爆音(105デシベル)が、米軍普天間飛行場に隣接する普天間第二小学校で計測された。
琉球大学が実施している本格調査がとらえたのは米軍機の離着陸時の音だ。屋上でも校庭でもなく、教室内に響く実態が初めて明らかになった。
先生の声が聞こえるはずがない。窓を開け外気を取り入れる当たり前の学習環境の中で、米軍機が飛ぶ度に授業中断を強いられる。累計すればおびただしい授業時間を失う児童たちに何の罪があるのか。
日米両政府が、普天間飛行場の全面返還による、危険性除去と騒音被害解消に手をこまねいている間に、子どもたちが爆音にさらされる理不尽な状況が続く。改善するには、一刻も早い返還・閉鎖が必要となる。
調査によると、防音効果の高い窓を閉じた教室で66・9デシベルを記録し、窓を開けると立て続けに99・5、105・7デシベルを計測した。
児童生徒が集中して先生の話を聞ける学習環境について、文部科学省は、窓を閉じた状態で50デシベル以下、開けた場合でも55デシベル以下が「望ましい」と定めている。第二小では、窓開放時はほぼ倍の爆音が注いでいることになる。
教諭の平均的な授業時の声の大きさは65デシベルという。世界保健機関の基準によると、教室内の騒音と教諭の声の差が15デシベル以上ないと、授業が聴き取れなくなる。授業寸断が裏付けられ、第二小の学びの環境が国際的にも許されない過酷な状況にあることは明白だ。
米国内の航空基地設置基準に照らせば、普天間飛行場の滑走路の延長線約900メートルを中心とする「クリアゾーン」内は、建築物がない緩衝地帯にしなければならない。児童や住民の心身への悪影響と墜落の危険性をなくすため、米本国ならば、基地が出ていく側になる。
日米両政府は、教室内の爆音を含め、度が過ぎた軍事優先の二重基準をいつまで放置するのか。
普天間飛行場の固定化圧力をてこに、県内移設を推進しようとする日米の思惑がうかがえるが、もってのほかだ。当たり前の授業ができる静けさを取り戻すため、全県民で閉鎖圧力を強めたい。
(琉球新報4/3社説、記事原文はコチラ)