2010年06月19日
「坂の上の雲」には描かれていない日露戦争
(沖縄タイムス6/18)
となり町に、我部政男・山梨学院大学名誉教授の講演を聴きに行った話をもう一つのブログに先日書いたのですが、まさに日本の20世紀のターニングポイントになったのがこの講演のテーマでもあった「日露戦争(1904ー05)」でした。
日本は開戦の2年前に日本史上最初の軍事同盟を大英帝国と結んでいる(日英同盟 1902年)。
ロシア帝国の拡大と南進をなんとか食い止めたいイギリスは、日本をけしかける。
有名なビゴーの風刺画だ。巨大なロシアの前で躊躇する日本の背中を押しているイギリス。少し離れてその成り行きをうかがうアメリカ。
19ヶ月戦った日本の戦費は日清戦争の10倍(18億2629万円)。日露戦争開戦前年の1903年(明治36年)の一般会計歳入は2.6億円であるから、当時の国家予算の7年分に当たる額になる。いったいそんなカネがどこにあったのか。結果的にイギリスとアメリカから戦費を調達し、英・米VS露の代理戦争を日本がやってしまう。
ロシアの国内事情(「血の日曜日事件」などで戦争継続が困難となる)で戦争はなんとか負けずに済んだものの、ロシアからは賠償金を取ることができず、外債や戦時国債の償還が滞り財政が逼迫(外債8億、9億内債・増税)、大きな借金を抱えての昭和が始まることになる。
国民の痛手は戦費の負担や増税だけでない。当時の日本軍の常備兵力20万人に対して、日露戦争に借り出された総動員兵力は109万人に達した。いかに過酷な徴兵が行われたかがわかる。日清戦争までは志願兵で戦われたが日露戦争からは国民皆兵となり、それより後30数年後に起こる太平洋戦争の根こそぎ動員の下準備はもうこのときなされていたのだ。
出征した兵士の十人に一人が戦死し、三人が負傷した。精神を病んだ帰還兵に関しては調査すらされていない。
しかしながら日本国内では情報統制により連戦連勝報道がなされ、国民の多くは内情を知らされておらずロシアから多額の賠償金(新聞紙上には50億)を取ることができると信じていた。大国ロシアに勝った民衆の熱狂ぶりは、カメルーン戦に勝利した直後の様子をはるかにしのぐものであっただろう。
ロシア側は賠償金の支払いを一切拒否、ポーツマス講和会議の日本全権・小村寿太郎へのバッシングはすさまじく、条約締結からひと月近く帰国もできなかったという。東京で起きた「日比谷焼き討ち事件」等の市民暴動では死人も出ている。
民主主義社会での健全な世論とは、かんたんにメディアや情報操作に乗せられて暴徒化するようなものではないと思う。
そんなことを考えていたら、朴裕河・韓国世宗大学教授の興味深い文章が新聞掲載された。次回紹介します。
Posted by ミチさん at 17:09│Comments(3)
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この記事へのコメント
沖縄での皇民化政策はすさまじかった。とくにその日本語教育は「軍隊内の指揮命令」を徹底するため、日露戦争の果たした役割が大きい。
沖縄からは3860人が日露戦争に出征し、200人が戦死、150人が負傷している。
日露戦争の後、沖縄人に対して、日本への国家忠誠・皇民化教育の徹底がいっそう進み、地方改良運動が展開された一方で、
①徴兵忌避の機運が高まり、身体の損傷や
②移民による海外脱出など、種々の抵抗も試みられた。
沖縄からは3860人が日露戦争に出征し、200人が戦死、150人が負傷している。
日露戦争の後、沖縄人に対して、日本への国家忠誠・皇民化教育の徹底がいっそう進み、地方改良運動が展開された一方で、
①徴兵忌避の機運が高まり、身体の損傷や
②移民による海外脱出など、種々の抵抗も試みられた。
Posted by ミチさん at 2010年06月19日 17:34
民主主義が暴走しやすく、大衆ほど熱狂的になりやすいものはないということは、歴史が証明しているのではないだろうか?独裁者が生まれる理由はひとえにここにあるのだから
Posted by O at 2020年11月23日 00:30
>Oさん、コメントありがとうございました
よくこのサイト、このページにたどり着かれましたね。びっくりしました。
20世紀のファシズムだけでなく、古代ギリシアやローマの議会制民主主義の時代から暴君や独裁者は生まれ続けています。21世紀の現代においても長期政権が続くロシアやトルコがそうですし、日本や米国でも危ういところを歩んでいます。いつの時代も施政者は大衆操作が巧みです。合法的にいつでも独裁者になれます。私たちはまだ解を見つけていないようです。
よくこのサイト、このページにたどり着かれましたね。びっくりしました。
20世紀のファシズムだけでなく、古代ギリシアやローマの議会制民主主義の時代から暴君や独裁者は生まれ続けています。21世紀の現代においても長期政権が続くロシアやトルコがそうですし、日本や米国でも危ういところを歩んでいます。いつの時代も施政者は大衆操作が巧みです。合法的にいつでも独裁者になれます。私たちはまだ解を見つけていないようです。
Posted by ミチさん at 2020年12月08日 15:38