2012年10月18日 13:28
[2米兵暴行事件] 我慢の限界を超えた
沖縄本島中部で、帰宅途中の女性が、米海軍所属の上等水兵(23)と3等兵曹(23)から性的暴行を受け、沖縄署と県警捜査1課が2米兵を集団強姦(ごうかん)致傷の疑いで逮捕した。
女性に落ち度は全くない。女性の人権を踏みにじる悪質極まりない事件である。
調べでは、2米兵は女性に片言の日本語で声を掛けた。女性が取り合わずに歩いていると、後ろから近づき首を羽交い締めにし、人けのない場所に引きずり込んで犯行に及んだという。
2米兵は米テキサス州にある海軍航空基地に所属し、厚木基地(神奈川県)から14日に沖縄に入った。任務を終え、犯行当日の16日にグアムに出発することになっていた。
2米兵は民間ホテルに滞在し同日午前にチェックアウトする予定で、沖縄を離れる日を選んで犯行に及んだのではないかとの疑念が消えない。県警には捜査を徹底して明らかにしてもらいたい。
今年8月には本島南部の路上で米海兵隊による強制わいせつ致傷事件が起きたばかりである。森本敏防衛相は日米合同委員会を開く意向を示している。だが、沖縄からは、事件のたびに日米両政府が口にする「再発防止」「綱紀粛正」という言葉は、沖縄の怒りを収めるための政治的パフォーマンスにしかみえない。
なぜ、再発防止や綱紀粛正が実行されず、事件が繰り返されるのか。合同委ではそれこそを問うべきである。
戦後67年がたったが、これほど長期間にわたって女性の人権が脅かされている地域が一体どこにあるだろうか。
■ ■
県警が県議会軍特委で明らかにしたところでは、復帰後だけに限っても米兵による強姦事件は未遂を含め昨年末までに127件に上る。あくまで統計上の数字である。1995年には米海兵隊ら3人による暴行事件が起き、県民総決起大会が開かれた。その後も女性を被害者とするおぞましい事件が後を絶たない。
復帰前には「空にB52、海に原潜、陸に毒ガス。天が下に隠れ家もなし」と言われたが、基地の過重負担は基本的に変わっていない。「空にオスプレイ、陸に米兵犯罪」-それが復帰40年の現状だ。相変わらず軍事が優先され、住民の安全・安心がないがしろにされているのである。
沖縄に米軍の専用施設の74%を押し込める矛盾が噴き出しているのだ。その場しのぎでは、もう立ちゆかないのは目に見えているのに、日米両政府とも負担軽減を求める沖縄の声を無視し続けている。
■ ■
2000年の沖縄サミットでクリントン米大統領は「米軍のフットプリント(足跡)を減らしていく」と演説した。負担や影響の軽減である。キャンベル国務次官補も同年、「一つのかごにあまりに多くの卵を入れすぎた」と、沖縄の過重負担を指摘する論文を発表している。
だが、負担軽減策は実行されていない。日本政府が海兵隊の沖縄駐留を求め続けているからだ。もはや我慢の限界を超えた。日米両政府が目に見える負担軽減策を実行しない限り、マグマが噴き出すのは間違いない。
(沖縄タイムス10/18社説、記事原文はこちら)
米兵集団女性暴行 卑劣極まりない蛮行安保を根本から見直せ
被害者女性の尊厳を踏みにじった米兵の野蛮な行為に強い憤りを覚える。凶悪犯罪の再発を防げなかった日米両政府の無策と責任も、県民とともに厳しく糾弾したい。
県警は16日、県内の20代女性への集団女性暴行致傷容疑で米海軍上等水兵(23)と、同三等兵曹(23)を逮捕した。容疑が固まれば速やかに起訴し、日本の裁判で厳正に裁くべきだ。
米軍は事件のたびに綱紀粛正や兵員教育による再発防止を約束するが、何が変わったというのか。現状は基地閉鎖なくして米兵犯罪の根絶は不可能だと、米軍自らが自白しているようなものだ。
続く米国の恥
女性は安心して道を歩けない。米兵は沖縄を無法地帯と考えているのか―。県婦人連合会の平良菊会長はこんな疑問を抱きつつ「危険なオスプレイが縦横無尽に飛んで、危険な米兵が地上にうようよしているのが今の沖縄か。人権蹂躙(じゅうりん)も甚だしい」と述べた。同感だ。
ことし8月にも那覇市で女性への強制わいせつ致傷容疑で米海兵隊員が逮捕された。復帰後の米軍関係の刑法犯は5747件(2011年12月末現在)に上る。米国はこうした現状を恥じるべきだ。
在日米軍には日米安保条約に基づき「日本防衛」の役割がある。しかし県民には苦痛をもたらす暴力組織としての存在感が大きい。
日米安保体制を容認する保守系首長も、垂直離着陸輸送機MV22オスプレイを強行配備した日米両政府に抗議し、万が一墜落事故が起きた場合には「全基地閉鎖」要求が強まると警告する。
両政府は在沖基地が人権を脅かし、地域振興を阻害している現実も直視して、普天間飛行場閉鎖と在沖海兵隊撤退を含め、米軍駐留の根本的見直しを進めるべきだ。
04年10月21日付紙面で、わたしたちは「沖縄を取引材料にするな」との社説を掲げた。
大野功統防衛庁長官(当時)が米軍の東アジア10万人体制を見直すため、1996年の橋本龍太郎―クリントン両首脳による日米安保共同宣言の見直しを提起し、在日米軍再編協議を本格化させた頃だ。
社説はこう説く。
「1972年の本土復帰に際して、当時のニクソン米大統領は佐藤栄作首相が求める『核抜き本土並み返還』を受け入れる代わりに、自らの公約である日本の繊維業者の輸出削減問題で首相に譲歩を求め成功した。いわゆる『縄と糸』の取引だ。96年の日米安保共同宣言の際には、橋本首相が普天間飛行場返還合意と引き換えに、極東有事に米軍の後方支援を積極的に行えるよう『日米防衛協力のための指針』(ガイドライン)の見直しを受け入れた」と。
復帰の内実
それは政府が「沖縄の負担軽減」を大義名分に米軍に譲歩する状況が、復帰時や安保共同宣言当時の日米交渉の構図と酷似していることを指摘したものだ。
米国は実を取ったが、沖縄住民は「核抜き本土並み返還」も「普天間飛行場返還」も手に入れていない。今また、米国は“招かざるオスプレイ”を県民に押しつけながら、植民地政策と見まがう基地の強化、固定化を推し進めている。
沖縄国際大の佐藤学教授は、今回の女性暴行事件について「沖縄が自由に使える土地という認識が復帰から40年たっても変わっていない。その認識の延長線上にこういう犯罪がある」と指摘し、仲井真知事に対し訪米要請で「沖縄の人権が、国民としての権利がどれほど踏みにじられているのかを直接伝えるべきだ」と注文している。
米国は沖縄の施政権こそ日本に返還したが、復帰後も日米地位協定に基づき「基地の自由使用」の権利や米軍の特権的地位を温存した。こうした対米追従の不平等協定は改めるべきだ。さもなくば県民の人権を踏みにじる日米両政府の「構造的差別」も続くだろう。
沖縄を踏み台とする日米の理不尽な政策について、県民を挙げて国際社会へ告発する必要がある。
(琉球新報10/18社説、記事原文はこちら)