2012年04月06日 19:35
[「衛星」打ち上げ問題]ちぐはぐな政府の対応
長距離弾道ミサイルとみられる北朝鮮の「人工衛星」打ち上げへの対応で、自衛隊がかつてない規模で県内へ緊急展開している。
3日以降、ミサイルを迎撃する地対空誘導弾パトリオット(PAC3)と自衛隊員約950人が続々と沖縄入り。配備地の那覇、南城、宮古島、石垣の各市でPAC3やレーダーが設置され、まるで“有事”想定の物々しさだ。
5日には災害用の全国瞬時警報システムを使い、県内26市町村へ情報を伝達した。試験放送とはいえ、「攻撃対象地域沖縄県」などの文言が受信した市町村のパソコン端末に表示され、こちらも“武力攻撃”が前提だ。
こうした、明日にでも沖縄が攻撃されるような国の対応には、多くの県民が戸惑い、疑問を抱かざるを得ない。
そもそも「衛星=ミサイル」との確証から、PAC3の迎撃能力、県民への影響の度合い、発射・迎撃後の北朝鮮や国際社会との関係がどうなるのかなど、政府は明確に説明していない。日本に落ちてくる「万が一」を御旗に着々と「破壊命令」が進み、沖縄へ軍事力が展開される空恐ろしさだけが募る状況だ。
日本のミサイル防衛(MD)システムは、北朝鮮の中距離弾道ミサイル「ノドン」の発射された1993年を契機に米国と共同研究を始め、20年近くかけて整備している。
しかし、ミサイルの迎撃試験で成功事例を国が強調しても、「ピストルの弾をピストルの弾で撃ち落とすようなもの」と実戦能力を疑う日米の専門家は少なくない。
今回の実戦配備は、北朝鮮による「衛星打ち上げ」を利用したMDの運用訓練との見方が多い。開発費を含む最終的な経費は1兆円規模ともみられ、こうした「高額な兵器をリアルな環境で試したい」(前田哲男氏)という自衛隊側の要請が強いというのだ。
実際、MDの拠点として日米合同で作戦を練る「共同統合運用調整所」の運用が、先月末から米軍横田基地(東京都)で始まり、防衛省幹部から「絶好のタイミング」と意気込む声も上がっている。
前のめりな防衛現場とは裏腹に、田中直紀防衛相ら政府や国会の中から危機感が伝わってこないのも異様だ。
3日の参院予算委員会でミサイル対応を審議中、防衛相の失言で委員一同が大爆笑、審議が一時滞った。防衛相は迎撃判断の責任やPAC3の配置も説明できず、国会の緊張感のなさを国民にどう説明するのか、首をかしげたくなる。
日本の外交努力が見えないのも今回の特徴だ。北朝鮮とは国交がないとはいえ、「衛星打ち上げ」を重大視するならなぜ、積極的な予防外交を展開しないのか。ちぐはぐな政府対応が目に付く。
外務省は、北朝鮮にさらなる圧力をかけるため、発射前に国連安全保障理事会で新たな決議ができないか、理事国と協議を始めた。常任理事国でもないため、米国頼みと厳しい観測もあるが、発射予定まであと1週間。野田内閣は心血を注ぎ、発射阻止を国際社会へ訴えるべきだ。
(沖縄タイムス4/6社説、記事原文はコチラ)