2013年06月02日 21:35
[アジア安保会議] ここでも歴史問題が…
シンガポールで開かれたアジア安全保障会議は、就任以来、高い支持率を維持し続ける安倍政権のアキレスけんが歴史問題にあることを、あらためて浮き彫りにした。
とげとげしい状態が続いている日中、日韓関係を改善するためには、歴史問題に対する姿勢を修正しなければならない。かといって歴史問題で方針を大きく変えれば、保守支持層の離反を招く恐れがある。どうするか。
アジア安全保障会議での講演で小野寺五典防衛相が示したのは、関係改善を重視する姿勢だった。
小野寺防衛相は、安倍政権の歴史認識を取り上げ、「痛切な反省と心からのおわびの気持ちを表明する歴代内閣と同じ立場を引き継いでいる」と表明した。
さらに橋下徹大阪市長の「従軍慰安婦」発言にも触れ、「地方都市の市長が不適切な発言を繰り返し、周辺諸国に誤解と不信感を招いた。安倍政権はくみしない」と、明確に一線を画した。
安倍政権は、欧米やアジアのメディアから「右翼ナショナリスト政権」だと警戒の目で見られ、米国政府からも戦後秩序を否定する歴史修正主義の台頭を懸念する声が相次いでいた。追い打ちをかけるように、「従軍慰安婦」をめぐる橋下発言が飛び出し、日本イメージは世界的な規模で悪化した。
小野寺防衛相の異例の講演は、こうした国際的空気を意識したものである。不信感を解くのは容易でないが、これを関係改善の足がかりにしてほしい。
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小野寺防衛相は、米国のヘーゲル国防長官、韓国の金寛鎮国防相と会談し、北朝鮮の核開発・ミサイル発射問題に3カ国が協力して対処していくことを共同声明の形で発表した。日米韓3カ国の防衛相会談は約3年ぶりのことである。
日韓関係の悪化を懸念する米国の強い働きかけで実現したのだという。日本が打診した日韓防衛相会談は「日程調整がつかない」との理由で韓国から断られ、実現しなかった。
小野寺防衛相の講演に対し、会議に出席した中国、韓国の関係者は、前向きな姿勢を評価しつつ、「行動で示してほしい」と注文する。
アジア各国の代表を目の前にした国外での発言と、国内での安倍政権の言動に食い違いが生じれば、日本はいよいよ各国から信用を失うことになるだろう。本音と建前の使い分けではない、筋の通った歴史認識を示すときだ。
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国連の人権条約に基づく拷問禁止委員会は5月31日、慰安婦問題で勧告をまとめ、被害者を傷つける発言に対して日本政府として明確に反論するよう求めた。安倍政権は、橋下発言の国際的反響を軽く見ないほうがいい。
防衛相が海外で語るだけではなく、安倍晋三首相自身が国内で明確な見解を明らかにする必要がある。中国や韓国との関係改善を重視するのであれば、避けて通れない道である。本はといえば安倍首相自身の発言が引き金になっているだけに、なおさらだ。
(沖縄タイムス6/3社説、記事原文はこちら)